アーカイブは企業PRとしても有効【先進企業に学ぶ企業アーカイブの取り組み(7)】

アーカイブは企業PRとしても有効【先進企業に学ぶ企業アーカイブの取り組み(7)】

そして、これは社外向けなのですが、展示物として美術館や博物館に貸し出すケースが多いそうです。
アメリカ・ニューヨークのメトロポリタン美術館では、ファッションショーが行われることがあります。
日本では最近、企業美術館、博物館が増えています。
近代美術館などは、新しい企業のものを美術として展示し始めました。
アーカイブはそういうときにも非常に有用な資料になり、かつ企業PRとしても有効です。
そうしたことを研究する研究者もたくさんいます。
化粧品の歴史も研究対象になりますし、プロパガンダ、アドバタイジングはどうだったのか、そういった研究に対して資料を貸し出す。
一橋大学経済学部などは、随分そういった資料を活用していると聞いています。
さらには、マスコミへの取材協力や、テレビドラマの中では時代考証にも非常に大切です。
テレビドラマを見ていると、明治時代なのにコンクリートの橋が出てきたりします。
それでは時代考証ができていない。
今のセットを作る人たちは、こういうことをちゃんと研究して、その時代時代を再現しようとしていますから、そういうときにも、資生堂のアーカイブは随分役に立つということを聞いたことがあります。

ブランディングについては、今さら言うことでもないのですが、大学の授業でも教えていました。
商品戦略には大きく3つあります。
マーケティング、ingが付いたら戦略を表します。
商品戦略、マーケティング戦略の中の大きなものは、市場細分化と製品陳腐化、製品差別化です。
化粧品を開発する場合、その化粧品の対象年齢層はどうか、どの所得層の人に売るのか、そういった仕事をしている人に売るのかなどターゲットをまず決めます。
それが「市場細分化」です。
「製品陳腐化」とは、既存の商品を古くして新しいものを売っていくもので、自動車のモデルチェンジなどがそうです。
パソコンのOSを変えるのもそうです。

そして、よその会社にない商品を作るのが、もう一つの「差別化」です。
私は、大学を出てすぐに天満屋に勤めたのですが、そこで販売促進部の宣伝催事を担当したことがあります。
そこで宣伝催事の大先輩から、「小西くん、宣伝催事の役目はなんだ」と試験を受けましたが、これに答えられなかったのです。しかられました。
「催し場は上層階にあるだろう。あれはお客様が下の階に降りていく間に買い物をしてくださるシャワー効果があるんだ」と。
来店促進になります。
催しをすることで売り上げを獲得するわけです。
催しで人を呼ぶのですが、「一番大事なのは、店格の向上だ。つまり、よそのデパートではできない、さすが天満屋だと言ってもらえることをやらなければいけない」と教えられたことがあります。
まさに差別化だと思うんです。
その差別化の一番大きなものがブランド戦略、ブランディングです。
今やブランドと言いますと、プライベートブランドやナショナルブランド、例えばイオンやセブンイレブンのブランドなどが出て、どんどん新しい質のいい商品ができています。
品質と同じようにブランドイメージが重要で、それがその会社の一番のプライオリティーになるとも言われています。

この曲線はプロダクトライフサイクル、商品の寿命です。
養命酒や味の素などのライフサイクルはずっと長いのですが、生まれてきて商品がなくなっていく間には、大体こういった曲線が描かれます。
図の下にパーセンテージが書かれています。
最初に登場するイノベーターという人たちは、とにかく新しいものが大好きで、非常に好奇心が高く、学歴が高い人、所得の高い人が多いと言われています。
新しい商品に一番に飛びつく購買層です。
その次が第1次多数者、いわゆるオピニオンリーダーです。
この人たちが買って口コミで広がっていって、売り上げがグーッと伸びるわけです。
この間に企業は次の商品を用意しますので、この曲線で全購買数が13.5%になったころ、次の商品を市場に出ていくという繰り返しで、商品が生き延びていきます。

プロダクトライフサイクルの下に描いた曲線は、バスタブカーブと言いまして、故障件数を表すものです。
バス、お風呂ですから台形を逆にしたようなカーブを描いています。
最初多かった故障件数は、13.5%の人が買うようになったころから安定します。
そして右から2番目、94%の人が買ったころは、価格が下がってくるころで、次の商品との陳腐化が図られるころです。
耐用年数が過ぎるなどで、ふたたび故障は増えていきます。
これがマーケティングの基本的な考え方です。
ここでブランド戦略に一番役立つのは、13.5%と34%の人が買うまでの間と言われています。

資生堂の企業文化についていくつも本が出版されている。 和田博文『資生堂という文化装置』(岩波書店)

資生堂の企業文化についていくつも本が出版されている。
和田博文『資生堂という文化装置』(岩波書店)

資生堂の企業文化についていくつも本が出版されている。 島森路子『銀座物語ー福原義春と資生堂文化』(毎日新聞社)

資生堂の企業文化についていくつも本が出版されている。
島森路子『銀座物語ー福原義春と資生堂文化』(毎日新聞社)

 

産業考古学会理事/Business Archives Lab.主任研究員
小西伸彦


先進企業に学ぶ企業アーカイブの取り組み(1)

先進企業に学ぶ企業アーカイブの取り組み(2)

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