デジタルアーカイブ「SHISEIDO-HISTORY」【先進企業に学ぶ企業アーカイブの取り組み(6)】
次に、資生堂のデジタルアーカイブの構成の、資料の分類についてです。
現在約20万点の資料があるそうです。それを、立体、文書(もんじょ)、書籍の大きく3つに分類しています。
宣伝物とかパッケージといった立体物から、写真、ポスター、CMを含む映像も立体物として分類しています。
文書は紙に書かれたものですが、その中には『花椿』というPR誌も、創刊号から全て保存されています。
書籍はそれ以外の雑誌や社史などで、社史は資生堂だけではなくて、資生堂に関係するも物全てが用意されているそうです。
そういったものを集大成したら20万点あるそうです。
第10代社長の福原義春さんは現在の名誉会長です。
「ヒト、モノ、カネが大事だ」と言われますが、彼は「ヒト、モノ、カネ」の三要素にもう一つ、「企業文化」を加え、これが大事だと提言しています。
1990年には企業文化部を創設します。
さらに、資生堂資料館も設立します。
そこに資生堂の歴史だけでなくて、化粧文化に関する研究内容や成果を、展示し、公開講座等で公表をすることによって、情報発信しいています。
さらに、銀座をはじめとするいろいろなところで公開講座を開催し、資生堂の考え方を広く知ってもらうことに注力しました。
『資生堂百年史』には、彼が作った企業文化部の役割は「創ってきたもの、伝えてゆくもの」をテーマとしたもので、無形の経営遺産である企業文化の蓄積を掘り起こし、それを有形として把握する。
それをどのように外部に発信していくかが大切である、書かれています。
つまり、ただ保存するのではなくて、情報発信することにより、資生堂を知ってもらうことに重きを置いたということです。
私は受けたことがないので分からないのですが、資生堂にはビューティーコンサルタントという、女性をきれいにお化粧してくださる方がいらっしゃいます。
例えばそういう人たちにも、美容の専門知識を付けるだけではなく、資生堂の歴史や企業理念を教え、共有して、それをお化粧しながらお客さんに伝えてもらう。
つまり、資生堂ファンを増やしていくということを積極的に行ったようです。
この当時のことを「書生堂」と言ったというのですが、いい意味で、ビューティーコンサルタントの中からこの言葉が出たのだそうです。
つまり資生堂は、人に対してもアーカイブの素地になるようなもの、発信する要素を求めてファンを増やしてきたと言えると思います。
今度は、社内向け、社外向けでどういった活用をしたかということです。
社内向けの一つとして、新入社員のプログラムの中に、資生堂資料館を見学するということがあります。
実際に見たらはっきり分かりますよね。
講義で聞いてもなかなか頭に入りません。大学の教員をしていましたが、パワーポイントで写真を見せると納得するのですが、板書しても、しゃべっても寝ている子が多いのです。
たぶん、そういう人が新入社員になったら同じだと思います。
ですから、博物館に行って現物を見せて、そこで話をして歴史を知ってもらう。
つまり体で覚えてもらって、ビジネスのコアとなる企業精神やビジョンを伝えていくということをしています。
それは今でもなさっていらっしゃいます。
社内向けにはデジタルアーカイブ「SHISEIDO-HISTORY」も公開しています。
今では画像が2000点以上になるのだそうですが、簡単にダウンロードできます。
一部には著作権の関係ですぐには、というものもあるように聞いていますが、ほとんどの画像が瞬時にダウンロードができ、すぐに使え、商品開発や提案資料やPR素材、デジタルムービーの制作などに活用できるそうです。
デザイナーなどが、温故知新、古い商品を知ってそれを現代に生かしていく、未来に発展させるために、昔のものをちゃんと目で見て使えるようにするという情報が約2千点、今もどんどん増えていっていると聞いています。
これが社内向けの活用事例の二つ目です。
そして三つ目です。多国籍企業と言いましたが、120カ国で事業を展開している資生堂ですので、やはりいろいろな国との付き合いがあり、日本の方程式は当然通用しません。
ヨーロッパは歴史や伝統を重んじる風潮がありますので、そこで市民権を得るには、企業に歴史があり、それをちゃんとエビデンスできることで、ヨーロッパでの地位をグンと上げることに直結するそうです。
それは信頼にもつながる。
つまり、アーカイブは海外において、ブランディングやPRという視点からも高い利用価値を持つと言われています。
コカ・コーラも、同じようにアーカイブをしています。
テレビなどには古いコカ・コーラのCMなども出てきますよね。
新しい瓶を作るときにも古いボトルの形を生かし、コカ・コーラらしさを残している。
フォルクスワーゲンやベンツといった老舗の自動車会社も全て、アーカイブしている情報を、車のデザインや性能をどう変えていくのかに生かしていると言っています。
さらには、社歴が浅い資生堂の社員、特に海外の社員で資生堂のことをあまり知らない人にも、やはり資生堂の歴史や文化を勉強してもらって、帰属意識を高める。
このあたりがなかなか日本的な発想だと思いますが、そういうこと生かしているということです。
四つ目です。
写真で見ていただいていますのは、創業2年目くらいから作り始めた化粧品を大正6年、7色の粉を使って新しく販売した商品です。
これが資生堂の原点となるような商品だと言われているのですが、それを百周年の記念として復刻させました。
パッケージから容量まで、ほぼ昔の通りとし、記念碑的な商品を大切にしようとしました。
それにもやはり、アーカイブが生かされたということです。
産業考古学会理事/Business Archives Lab.主任研究員
小西伸彦