地方・小出版流通センター「アクセス」に寄稿

地方・小出版流通センター「アクセス」に寄稿

(株)地方・小出版流通センターの情報誌「アクセス」7月1日号に、拙文「地域出版とアーカイブス」が掲載されました。
本稿は、地域を拠点に活動する小出版社の、これから取り組むべき仕事としての「アーカイブ」ついて紹介したものです。

地域出版とアーカイブズ

【リード】

2年前(2017年)の6月、岡山県立記録資料館で講演した。
テーマは「地域出版とアーカイブ」。
それまで、「アーカイブ」という言葉を特別意識したことはなかったのだが、少しは勉強しておこうと、アーカイブに関する本を読み、アーカイブに携わっている人たちに話を聞いた。

そうしたなかで、地域で本をつくることとアーカイブは密接な関係があること、地域を拠点に活動する小出版社がこれから取り組むべき仕事として、「アーカイブ」がひとつのキーワードになるのではないかということを考えるようになった。

地域出版が取り組むアーカイブ事業、踏み出したその一歩について報告したい。

【本文】

アーカイブとは英語で「記録保管所」のことで、記録された文書、史料、画像などを整理、保存し活用すること。
岡山では、岡山県立記録資料館が公文書を対象にしたアーカイブを担っている。
同館は、平成17年9月に開館。全国の都道府県立の公文書館では29番目の施設で、県の公文書をはじめ個人や組織の文書群を収集、保存している。
館内には、テーマを決めての展示コーナーや資料などの閲覧室、研修室などもあり、年間に6000人(平成28年度)が訪れ利用しているという。

吉備人出版の著者には地域史を研究している人も多く、県立図書館と同様この記録資料館を利用している。
ただ、私自身はどのような資料が保管され、どんな活用をしているのか、その役割などほとんどといっていいほど知らなかった。
熱心な活用者ではなかった。

地域出版社としての蓄積を生かして

吉備人出版は、1995年(平成7年)に創業し、この春(2019年)25年目に入った。
これまで約680タイトルの本を出版している。ほとんどが地域をテーマにしたもの、著者が岡山ゆかりのある人などである。
ここ数年は、年間に30点から40点のペースで刊行している。

こうした出版活動とともに、近年増えているのが地元企業の社史編纂だ。
この7~8年間に企業数でいえば十数社の社史・記念誌の編纂・制作を手伝ってきた。
多くは、企業が持つ古い資料を掘り起こし、関係者やOB社員への取材をもとに原稿制作から書籍化までを行う。
必要に応じて地域史の専門家に監修を依頼することもあり、こうした地域出版で培ってきた総合力がいわばウリなのである。

さて、社史編纂が終わるたびに感じることがあった。
せっかく集め整理した資料・写真などが、再び段ボール箱に詰められ保管、場合によっては廃棄される――これを何とかできないか。
編纂作業の過程で必要な資料はデジタル化し保存する。
キーワード検索によって、その資料をすぐに呼び出すことが出来れば……。
さらに刊行後はそれぞれの企業が日々の事業活動を定型的にデジタル化すれば、日常的な企業アーカイブの構築が可能なのではないか。

一連の作業を企業に代わって代行するサービスを、ビジネスとして落とし込み、アーカイブ事業をスタートさせた。
事業名は「Business Archives lab.」。
それが2018年の春。
ちょうど1年前だ。

そのときまとめた事業計画書には、つぎのようにある。

「……編纂作業においては、依頼者である企業の持つ資料の発掘、整理、関係者のインタビュー、調査などが欠かせない作業ですが、あくまでも記念誌編纂を目的とした作業に終わり、記念誌刊行後は再び段ボールなどに詰められ(場合によっては廃棄され)、系統的な整理・保存・活用には結びついていないのが現状です。

企業としては――
こうした企業史料の重要性を認めながらも、
「どのように保管しておけば良いのかわからない」
「資料保管、整理のための人員・経費を避けることができない」
「今のうちに創業者やOBの話を聞いておかなければ、何も記録が残っていない」
「資料を残していても、活用方法が思いつかない」

……などなど、CSRやコンプライアンス、社員教育、広報関係ツールとして、ある程度の必要性、価値を認めつつも、通常業務の一つとして、企業アーカイブの整理・保存・活用に取り組めていないのが現状です。

吉備人では、こうした企業・団体の資料の整理・保存・活用の必要性、重要性を訴えつつ、その業務の代行を受託し、企業アーカイブを地域資源の一つとして位置づける活動をビジネス化することにいたしました」

具体的には、

  • 未整備な資料の保存状況と調査
  • 資料の収集、整理、分類、体系化、保存、管理、電子化等のバックアップ作成、ファイリング、目録作成、データベース作成等
  • 資料のデジタル化スキャニング-PDF化、デジタル化、資料の保存・活用のための作業
  • 創業者やOBを対象にしたインタビューによる「記憶」の記録化(文章化)及び編集
  • 社史など企業アーカイブズの活用に関する企画・提案

――などを業務内容として組み込んだ。

資料のスキャニングなど設備や知識が必要なものは、地元の印刷会社と提携することにした。
印刷会社もまた、印刷受注の厳しい状況が続くなか、新たな事業を模索しているということもあり、前向きに協力してくれることになった。

これまで社史編纂などでつきあいのある企業にビジネスアーカイブ事業を提案したところ、どの社も必要性を感じ、興味を示してくれた。
公共の事業を担うある社では、「まず総務分野の資料から取り組んでみたい。検討します」。
また建設ゼネコンのある社では、「倉庫に眠っている大量の設計図や建設仕様書などを整理、デジタル化したい」との返事が返ってきた。

必要性を感じながらも、どこからどう手をつけていっていいのかわからなかった――それがアーカイブを提案した企業の反応だった。
掘り起こせば、需要はある。そんな確信を得た。

セミナーで裾野を拡大

昨年秋には、第1回企業アーカイブセミナーを開催した。
当日は、産業考古学会理事研究者による「先進企業に学ぶ企業アーカイブの取り組み」と題した講演をはじめ、アーキビストら専門家による事例紹介、社史などへの活用提案などを行い、県内外から参加した約30人と企業資料の保存と活用について考えた。

今年5月には第2回のセミナーを行い、昨年夏の西日本豪雨で被災した倉敷市真備町の家具製造会社社長が、「災害と企業アーカイブ」と題し講演。
社屋・工場が水没するというたいへんな状況にもかかわらず、奇跡的なスピードで復旧・復興を果たした経験をもとに、資料のデジタル化の重要性を話してもらった。

こうしたセミナーの開催やWebサイトでアーカイブ事業の事例を紹介することで、地元企業から資料のアーカイブ化、またアーカイブ化を含めた社史編纂についての依頼、問い合わせが増えてきている。

地域出版の出版テーマとして、地域のアーカイブは欠かせない。
一方で、地域のアーカイブの活用方法、表現方法の一つとして、出版物の編集・制作は欠かすことのできないものだ。
今後、地域出版が地域・文化・教育・産業に役立つ存在になるためには、アーカイブに対する考え方がもっと広く根付かなければならない。
地域出版としては、アーカイブズ構築の裾野を広げていく活動が欠かせない。

地域のアーカイブへの関心が高まり、その重要性が認められることで、さまざまな分野における地域のアーカイブズが構築される。
それらが重層的につながることで、これからの地域づくり土台となり、バネとなっていく。
この一連の流れのなかで、地域出版社が担うべき役割があるのではないかと思う。
少なくとも吉備人はその役割を担う存在でありたいと思っている。

Business Archives Lab.のホームページ
https://business-archives.jp/